バトンタッチを考える

思いを渡せるという幸せ。

練習後に

長男が会計の仕事に興味をもったのは妻のおかげ

 長男は会計事務所の仕事に興味がありませんでした。大学では文学を学び、「経済や経営には関心がない」と言っていました。彼は大学院を修了し、SEになりました。

 そんな長男を変えたのは、妻が当社に入社したことです。

 その当時、長男は一緒に暮らしており、私が妻と仕事の話をするのを聞いていました。それまで専業主婦だった妻が、仕事にのめり込んでいく様子を見て、「両親の会社は興味深い」と思いはじめたようです。

 長男は当時を振り返り、会計人向けの雑誌に、こんなことを書いていました。

「私が就職したのとちょうど同じ頃、現在COOを務めている母が、事務所の経営に参画するようになったのです。母が生き生きと仕事をするようになっていったのです。すると父も刺激を受けて、以前より仕事にのめり込むようになりました。このとき『楽しそうに仕事をしているな』と感じたことがきっかけで、税務会計というものに興味をもち、勉強を始めました。すでに28歳を過ぎていましたから、かなり遅いスタートです」

 妻が長男にこんな話をしたことがあります。

「会社という自分を活かす環境をもっている人は、世間でそれほど多いわけではないでしょう。選択肢が一つ多いという意味において、あなたは恵まれています。それを生かすも殺すもあなた次第です。つぶしても縮小しても拡大してもいいです」

 すると長男は「やりたい」「資格をとる」と言いました。

 それまで経済や経営に関心がなかったし、私がすすめたときには毛嫌いしていたので、驚きました。長男は2011年の秋に公認会計士の資格を取得し、その後、大手監査法人での勤務を経て、2015年に当社に入社しました。

自分の道を進んでいた家族が集結する

妻が会社に入っていなかったら事業の継承者はいなかった

 長女は長男より一足先に入社しました。大学の専攻は社会科学でしたが、学生時代から専門学校に通い、2008年に公認会計士の資格を取得し、監査法人に勤務していましたが、2013年に当社に入りました。

 次男は本人から「会計事務所に就職したい」と言い、2015年に自分で探して就職し、お世話になりました。そして2021年、当社に入りました。

 妻が会社に入っていなかったら、子供たちは会社を避け、事業の継承者はいなかったかもしれません。

 事業承継には2つ側面があります。ビジョン、ミッション、バリューを引き継ぐこと、やり方を時代に合わせて変えることです。

 とくに現在は情報化社会ですから、CPS/IoT活用が必須です。

 そのためには早めに若い世代にバトンタッチする必要があります。

 CPS/IoT活用がわからない上の世代がいつまでも会社で幅を利かせていると、頭上に石が乗っかっているような感じになってしまいます。

 ビジネスマンは40代が最盛期です。自分もそうだったし、周囲を見てもそう感じます。50代は経験豊富ですが、体力、行動力、意識が衰えはじめます。

 妻は「事業承継後に会社を潰してもかまわない。おもしろおかしくやりなさい」「歌舞伎のような伝統芸能は潰すわけにはいかないけれど、会計事務所は他にもあるから大丈夫」と言っています。言われてみれば、寂しいけれど、たしかにその通りだと思います。