「終着駅からメソッド」で考えるバトンリレー。
12年後にバトンを渡すと決める
私が子どもに事業を渡そうと決めたのは、2019年、58歳のときでした。
渡す時期は12年くらい後と定めました。
経営者は、事業を渡す相手のことを「まだ未熟」と思ってしまい、なかなかバトンが渡せないことがあります。そうしたケースを、仕事を通じ、何度か見てきました。
しかし、事業を受け継ぐ側の立場で考えると、仕事の能力が高く、一定の経験を積んだ40代でバトンを渡してもらいたいでしょう。
また、情報化社会が進展すると、社内でのCPS/IoT活用が必須になりますから、そのためにも技術に精通した若い世代にバトンタッチする必要があります。
事業承継を早めに検討するメリットはたくさんあります。
後継者が軌道に乗るまで十分な引き継ぎを行うことができますし、会社や経営者自身の資産や負債を整理し、事業を引き継ぐことができます。
また、中小企業の場合、家族や親族が役員や株主になっていることも多く、関係者全員から事業の行く末や新しい経営者について十分に理解を得る時間もあるでしょう。
私は長男の入社のタイミングで、12年くらい後にバトンを渡すと決めましたが、このとき役立ったのが「終着駅からメソッド」です。「終着駅からメソッド」は「す」「こ」「し」「か」「も」「つ」と、表現できます。
「す」好きな仕事を続けていくには
「こ」こうなりたいと思い描いている
「し」終着駅、仕事の最終形までまず行く
「か」課題はT o Do Pointとしてあげ
「も」戻ってから少しずつ
「つ」つぶしていく
私は前述のとおり、58歳で事業承継を思い立ったわけですが、70歳でバトンを渡すことが、この場合の終着駅です。
最終形を思い描き、課題をT o Do Pointとしてリストアップし、現在に戻り、少しずつ解決してきました。
準備することはとても大事でした。最初は後継者に、「何を学ばせようか」と考えていましたが、妻とも相談し、「何を経験させようか」という視点に変化していきました。
現在から未来を考えるか、未来から現在を考えるか
「終着駅からメソッド」は中学2年生のとき、数学の家庭教師に教えてもらいました。この人は現役の東大生でした。
受験は試験問題を解くのが目的なのだから、できる、できないに関わらず、まずは問題集に取り組ませるという方針の人でした。
「試験勉強にはこの方法が一番いい。教科書を勉強しないで問題を解こう」
「そうすれば、何がわからないかがわかる」
それ以来、何かをするときには、まず終着駅(目的地)まで行き、足りない点を認識してからはじめることにしています。
これは未来から考える方法にも似ています。
現在、もしくは過去のデータから、「こんな世の中になるのではないか?」と未来を予測することをフォアキャスティングと言います。
フォアキャスティングで未来を考えると、現在の諸要因から可能性の高い未来を浮かび上がらせることに重きが置かれ、想像力を働かせることのできる領域は小さくなります。
一方、「終着駅からメソッド」は。バックキャスティングです。バックキャスティングでは未来に視点を置いて、理想とする未来の姿を思い描きます。「こうなりたい」という発想から未来を思い描くので、たくさんの未来像が思い浮かびます。自由に思い描くことが可能であり、想像するとワクワクしてくるのです。